病院のニュースを見ていると、MRSAという言葉を耳にします。
なんだかとても科学的な雰囲気のする言葉ですが、どういったものなのでしょうか。
ここでは、MRSAについて紹介していきます。
どんな菌?
MRSAは日本語で「メチリシン耐性黄色ブドウ球菌」という細菌のことをいいます。
黄色ブドウ球菌といえば、皮膚の上などにいる常在菌として名が知られており、通常の菌よりもやや毒素が強いことが特徴です。
その中でも、抗生物質の一種であるメチリシンという薬剤に耐えられる強さを持った、いわば「今までの抗生物質が効かないブドウ球菌」がMRSAというわけです。
単純に薬を飲めば治るというわけにいかないところが一癖あります。
どうして菌を殺せないの?
MRSAはメチリシンという抗生物質に、打ち勝つ耐性を身に着けてしまっています。
昔は、こうした抗生物質自体が貴重であり、メチリシンという抗生物質が比較的広い範囲の種類の菌に効くことから、非常に日常的に使われ始めていました。しかし、メチリシンが一般的に多く使われ始めると、それだけブドウ球菌がメチリシンと長く一緒にいることになります。
近年の研究で、細菌は思ったよりも利口で、自分を攻撃する薬剤などにさらされた場合、時間をかけてゆっくりとその構造を学習し、薬剤を中和する酵素をつくりだしたり、自分自身の構造をかえて薬剤がくっつかないようにしたり、といった驚くべき対処をするのです。
一度耐性を持ってしまうと、その薬剤は菌にとって攻撃対象からはずれます。駆逐されない菌は自分自身を増殖させて、ますます増えるというわけです。
黄色ブドウ球菌との違い
MRSAも元を正せば黄色ブドウ球菌です。簡単に言ってしまえば、耐性をもっているか、そうでないかの違いになります。
ただ、MRSAには今まで効いていた薬剤が効かないという耐性があり、その耐性は普通の細菌がもつ自己防衛本能によってできていきます。長い目で見れば、ただの黄色ブドウ球菌も、長時間メチリシンの治療環境にさらされればいずれは耐性をもつということがわかるでしょう。
こうした、耐性菌の増産を避けるために、現在では1つの薬剤だけでなく、複数の薬剤を使用し耐性をもたせにくくしながら、できるだけ一気にたたくというのが主流となりつつあります。
院内感染
MRSAがいくらメチリシンに耐性があるとはいえ、ブドウ球菌自体の毒性はそこまで変わりません。
では、なぜMRSAはなくならないのでしょうか。
答えは病院という環境にあります。入院したことのない人はピンと来ないかもしれませんが、病院で入院している人の中には、喉に穴を開けて直接呼吸の管をつなげたり、骨や筋肉が露出したり、といった信じられないような状態の人も結構いるものです。
そして、皆自宅で暮らすのが難しいから、わざわざ入院しに来ており、病気に対する抵抗力などは地に落ちているといっても過言ではありません。
そこに、ただえさえ抗菌剤の効きにくいMRSAに感染したら、ひとたまりもありません。また病院という場所は、一般的な生活空間よりも薬剤をしっかりとつかいますから、メチリシンに触れる機会も多いのです。
こうして、高度な治療ができる反面、MRSAがはびこるというジレンマが病院にはあるのです。
症状
具体的にMRSAもとい黄色ブドウ球菌は、どのような症状を起こすのでしょうか。
黄色ブドウ球菌は、エンテロトキシンという毒性のある物質を作り出す細菌です。
体内に入ると3時間ほどで激しい腹痛と嘔吐・下痢が起こり、身体から水分が抜けてゆきます。ひどい場合には、エンテロトキシンとそれを攻撃する自分自身が作った抗体で体中がいっぱいになり、激しい発熱、炎症、ひどいときにはショックといって血圧や脈といった生命維持の要が危うくなります。
特にMRSAは、基本が重体の患者が感染することが多いため、体内の免疫機能が崩れて、敗血症や多臓器不全などを起こす可能性は高いです。
まとめ
MRSAは、ブドウ球菌由来の毒素と病院という環境とが相まって、より深刻な状態となっている現状がわかりますね。
高度医療のジレンマとも呼べるべき存在といえるのかもしれません。